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閉鎖されたタイガーテンプルの入り口付近

「タイガーテンプル」トラ寺院が動物園として再開間近?

以前から動物虐待と違法取引の噂が絶えなかったカンチャナブリー県にあるトラ寺院(タイガーテンプル)にメスが入れられたのは2016年5月30日だった。この捜査はタイガーテンプルで長年働いていた獣医スムチィア・ビィサスモンコルチィア氏が職を辞し、内部告発をしたことがきっかけだった。同氏は消えたトラについて当局に訴え出て、3頭のトラから摘出したマイクロチップを提出し、トラの消失が実際にあったことを認めた。野生動物局はこれを受け、寺院のすべてのトラを押収すると発表した。その日、タイ当局は500人態勢で強制捜査に着手し、寺院にいる計137頭のトラを保護した。カンチャナブリー県にあるこの寺院は世界的に有名な観光スポットとして成功し、年間およそ300万ドル(およそ3.2億円)の収入を得ていたという。しかし、トラと直接触れ合える施設として人気を博す一方、動物保護団体などからは評判が悪く、トラへの虐待やトラの闇取引に寺院が関与しているという噂がこれまで囁かれてきた。寺院の僧らはこうした疑惑を否定してきたが、タイ当局の行った6月1日の強制捜査時に、業務用の冷凍庫から凍結した40頭の子トラの死骸が見つかった。また、捜査では瓶詰めにされた20頭の子トラなども発見され、政府に報告のない違法なトラの繁殖(タイでは絶滅危惧種であるトラの出生、死亡に関して法律で報告が義務付けられている。)が行われていたことが明るみになった。

凍結した40頭の子トラの死骸
凍結した40頭の子トラの死骸

また、同年6月2日、タイガーテンプルの院長秘書を務めていたジャクリット・アピスティパンサクール氏が、2頭分のトラの皮、トラの歯10本、トラの皮の小片を入れた御守りを大量に積み込んだ車で寺院を出ようとしたところを逮捕された。また、絶滅危惧種の動物を材料に用いた違法な製品を所持していた僧2人、信者2人が、共犯者として身柄を拘束されたことを当時、ロイター通信は報じている。

瓶詰めにされた20頭の子トラ
瓶詰めにされた20頭の子トラ

以来、閉鎖しているトラ寺院(タイガーテンプル)だが、その後、タイの野生動物局は同寺院が立ち上げたタイガー・テンプル株式会社に、5年間の動物園営業の認可を与えたため、現在、動物園の建設が旧寺院のすぐ隣で進んでいる。絶滅に瀕する野生動物の違法な取引への関与が疑われる寺院の関連施設に動物園の営業認可を与えるという行為に対しては、広く疑問の声が上がっているが、同寺院が立ち上げたタイガー・テンプル株式会社内には重大な犯罪行為で有罪になった者がいないため、法的には申請を却下することができないという。寺院のすぐ隣の土地に広さ4ヘクタールほどの施設を建設することが予定されている「タイガー・テンプル」動物園は2017年現在、工事が着々と進行中であり、早ければ、2 – 3ヶ月後にはリニューアルオープンを迎えることが、今月2月24日、バンコクポストに報じられた。タイガー・テンプルに代わる施設の誕生を喜びながらも、タイガー・テンプルの運営に関わっていた人間が再びトラの飼育に関わることに対して、タイ国民は複雑な感情を抱いている。

タイガーテンプルのプーシット・(チャン)・カンティタロ院長
タイガーテンプルの院長プーシット・(チャン)・カンティタロ氏

「タイガー・テンプル」強制捜査に至るまでの経緯

タイガー・テンプルをめぐる騒動は、2001年、野生動物局がこの寺に7頭のトラがいることを認識したときから始まった。同寺院のプーシット・(チャン)・カンティタロ院長は、絶滅の危機にある動物を飼育するための適切な許可を得ておらず、「我々はトラの所有権を没収したのです」とタイ野生動物局の副局長アディソン・ヌッチタムローン氏は言う。しかし当時、野生動物局にはトラの世話をするためのノウハウも適切な施設もなかったため、結局は寺院が引き続きトラを飼育することとなり、同寺院に対しては、トラを繁殖させないこと、金儲けの道具に使わないこととの命令が下された。寺院側はこの指示を無視し、当局側も見て見ぬふりをした。寺院はやがて大金を生み出す観光スポットとなり、2015年4月の時点で、トラの数は147頭にまで膨れ上がった。2014年12月には、マイクロチップを装着して政府に登録済みの雄のトラ3頭が寺院から姿を消した。以来、地元警察による捜査が続けられてきたが、誰ひとり罪に問われることはなかった。同寺院はこのほか、ツキノワグマ6頭、サイチョウなどの希少な鳥38羽の違法所持でも係争中の状態にある。これらの動物は、2015年春に野生動物局が行ったそれぞれ別の強制捜査によって押収されたものだ。以前の視察において目撃されていたキンイロジャッカル2頭とマレーヤマアラシ2匹は、役人が出向いて保護する前に姿を消した。こうした動物たちはすべて絶滅危惧種であり、タイの野生動物保全・保護法と、タイを含む182カ国が批准する「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES、通称ワシントン条約)」によって保護されている。2016年1月、ナショナル ジオグラフィックは、寺院から消えた3頭のトラが殺害され、夜間に運び出されたという疑惑に関する記事を掲載した。またオーストラリアの環境保護NPO「Cee4life(シー・フォー・ライフ)」は、少なくとも2004年以降、同寺院では数多くのトラが運び出されたり、持ち込まれたりしていると訴える報告書を公表した。この記事にも「Cee4Life」の報告書にも、トラが姿を消していることに関する元職員やボランティアの証言が登場する。「Cee4life」の報告書と共に公開された動画や音声記録からは、院長が現状を認識しており、トラの闇取引に関与している可能性もあることが伺える。「Cee4life」の創設者シビル・フォックスクロフト氏の記録によると、1999〜2015年の間にこの寺院にいたトラは計281頭であり、この数は昨年、政府の視察官が確認した147頭のほぼ2倍にあたる。「では消えたトラたちには、いったい何が起こったのでしょう」とフォックスクロフト氏は言う。昨年12月に行われたインタビューの中で、タイガー・テンプルの院長秘書ジャクリット氏は、同寺院がラオスのトラ飼育場と国境を越えた取引を行い、寺院の雄1頭を雌1頭と交換したことを認めている。「Cee4Life」は、5月に野生動物局に提出した報告書の補遺において、また別の違法行為、すなわちタイガー・テンプルによるトラの体の部位の売却、贈与、国外への輸送について告発した。批評家らは、これが先日のジャクリット逮捕の法的根拠となったのではないかと見ている。「Cee4Life」の報告書とナショジオの記事において、重要な情報提供者となったのが、当時は安全への懸念から身元を隠していたある内部の人間だ。先週、自らの身元を明かしたスーチャフォン・ブーンサーム氏は、タイガー・テンプルで無償の法律アドバイザーとして働いていた人物だ。自分が名乗り出たのは、「真実を語り、他のトラたちと自分自身を守るため」だと彼は言う。スーチャフォン氏はバンコク・ポスト紙でのインタビューで、院長は寄付金や観光客から得た収入を、ドイツ、チェコ、オーストリアにタイガー・テンプルをつくるために使ったと述べている。一方、寺院側は、スーチャフォン氏を業務上の違法行為で訴え、彼の法律家としての資格停止を画策している。スーチャフォン氏は大いに身の危険を感じており、数日おきに居場所を変えなければならない状況にあるという。報道記者のアンドリュー・マーシャル氏がシドニー・モーニング・ヘラルド紙に寄稿した記事からは、なぜ捜査にこれほどの時間がかかったのか、その理由の一端が見えてくる。2010年、マーシャル氏は、タイガー・テンプルが当時、タイの警察と軍に70万バーツ(当時でおよそ188万円)の寄付をしていたことを突き止めた。地元カンチャナブリーの元警視監スピポーン・パクジャルーン氏は現在、タイガー・テンプル財団の副代表の座に収まり、動物園開園計画の一環として寺院が新たに設立したタイガー・テンプル株式会社を取り仕切っている。タイ政府は今回、タイガー・テンプルの捜索を行ったが、これで同寺院がトラ観光ビジネスから完全に追放されたわけではない。

出典:National Geographic

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